理学療法士が考える脊椎分離症のケア方法

脊椎分離症は多くみられる疾患となります。

今回は脊椎分離症についてと、理学療法士が考える脊椎分離症のケア方法についてお伝えしたいと思います。

脊椎分離症とは

脊椎分離症は、脊椎の骨(椎骨)の一部が破損する状態です。特に、脊椎の椎弓部分に亀裂や断裂が生じることを指します。このケガは、特に若年層のアスリートに多く見られ、腰痛の一因となります。

椎間関節の基部の骨が分離する状態です。

脊椎分離症の有病率

日本の一般人口における脊椎分離症の有病率は、約5%から6%程度とされています。これは、他の国々と比較しても比較的高い数値です。

また、スポーツを行う若年層では、特に体操選手や重量挙げ選手など、脊椎に大きな負荷がかかるスポーツを行う選手において、有病率がさらに高くなる傾向があります。一部の研究では、これらのアスリートの中には10%以上が脊椎分離症を持っていると報告されています。

脊椎分離症の原因

脊椎分離症の原因は複数あり、主に以下の要因が関与しているとされています。

  1. 反復的なストレスと過負荷:
    • 特に、脊椎に反復的なストレスや過負荷がかかる活動が原因で発生することが多いです。これには、体操、重量挙げ、レスリング、フットボール、陸上競技などのスポーツが含まれます。
    • 脊椎の特定の部分、特に腰椎に反復的な屈曲、伸展、回旋の動きが加わることで、椎骨の椎弓部に亀裂が生じることがあります。
  2. 先天的な要因:
    • 脊椎の先天的な構造的弱点や異常が、脊椎分離症の発症に寄与することがあります。これには、椎骨の形状異常や椎間関節の異常などが含まれることがあります。
  3. 成長期の骨の脆弱性:
    • 成長期の子供や若者は、骨の成長が完全には終わっていないため、特に脊椎分離症を発症しやすいとされています。この時期の骨は、特に反復的なストレスに対して脆弱になりやすいです。
  4. 遺伝的要因:
    • 一部の研究では、脊椎分離症には遺伝的な要因が関与している可能性が示唆されています。家族歴がある場合、脊椎分離症を発症するリスクが高まることがあります。
  5. 外傷:
    • 事故や怪我による直接的な外傷も、脊椎分離症の原因となることがあります。

脊椎分離症の症状

脊椎分離症の症状は個人によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。

  1. 腰痛:
    • 最も一般的な症状で、特に運動後に痛みが増すことが多いとされていますが、屈伸で痛みが強く出る場合も多いです。
    • 痛みは通常、腰部の中央やその両側に発生し、慢性的になることもあります。
  2. 活動による痛みの増加:
    • 特定の動作や姿勢、特に腰を反らす動作(伸展)で痛みが増すことがあります。
    • スポーツや重い物を持ち上げるなどの活動が痛みを引き起こすことがあります。
  3. 痛みの放散:
    • 痛みが臀部や下腿部に放散することがあります。これは神経の刺激や圧迫によるもので起きている可能性があります。
  4. 筋肉の緊張や硬直:
    • 痛みから体を守ろうとするために腰部の筋肉が緊張し、硬くなることがあります。
  5. 運動範囲の制限:
    • 痛みや不快感により、腰の運動範囲が制限されることがあります。
  6. 姿勢の変化:
    • 痛みを避けるために、普段とは異なる姿勢をとることがあります。そのため、腰だけでなく膝や首など離れた場所で痛みが出たりすることもあります。
  7. 神経症状:
    • まれに、脊椎分離症が神経を圧迫することで、足のしびれや弱さなどの神経症状を引き起こすことがあります。

一般的な治療

一般的に手術をしないで様子をみる保存的加療と手術的治療に分かれます。

保存的治療

  1. 休息:
    • 痛みを引き起こす活動やスポーツからの一時的な休息が推奨されます。
    • 完全な安静ではなく、日常生活を続けることができる程度の休息が望ましいです。
    • これは痛みに応じて行っていただくことになるため、無理をしないことが大切です。
  2. 運動療法:
    • 筋力トレーニング、ストレッチ、姿勢を調整するなどを含む運動療法が行われます。
    • 腹筋や背筋の強化、柔軟性の向上を行うことで、分離している部分に負担をかけない体を作ります。この運動療法に関しては後述します。
  3. 痛みの管理:
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬物による痛みの管理が行われることがあります。
  4. コルセットの使用:
    • 脊椎を安定させ、痛みを軽減するために、一時的にコルセットを使用することがあります。
    • コルセットは日中の動いている間着用されることがありますが、寝ている時は外します。

手術的治療

  • 保存的治療による改善が見られない場合や、脊椎の安定性が著しく損なわれている場合には、手術が検討されることがあります。
  • 手術は、脊椎の安定化や痛みの原因となる部分の修復を目的として行われます。
  • 手術を行う方の詳細な割合はありませんが、保存的加療で症状が落ち着く方が多く手術を行う方の割合は少ないです。

その他のサポート

  • 活動の調整: 症状を悪化させる可能性のある活動を避け、適切な体の使い方を学ぶことが重要です。
  • 教育とカウンセリング: 脊椎分離症に関する知識と、日常生活やスポーツでの予防策についての教育が行われます。

理学療法士が考える脊椎分離症のケア方法

考え方は、まず主治医の先生からどの程度動いても大丈夫かを聞いておくことが大切です。

その上で、「局所の安静を保ちながら」「局所に負担のかからない体作り」を行うことが大切です。

多くの場合は脊椎が伸展(後に反れる)方向の動きで症状が増悪することが多いです。

その脊椎が伸展しないような体作りが大切になるのですが、例えば反腰の方の場合は真っ直ぐ立っているだけで腰が反っているので脊椎が伸展してしまいます。

反腰の原因を評価して反腰を改善することが大切になります。このように脊椎がなるべく伸展しない体を作ることを念頭にアプローチとして多く行っているものを説明します。

股関節の伸展制限の改善

股関節の前の筋肉が硬くなることで、骨盤が前に傾いてしまいます。骨盤が前に傾くということは骨盤の上についている脊椎が前に傾くことになり、脊椎の伸展が起きてしまいます。

股関節の前にある筋肉の柔軟性を上げることが大切です。

筋肉は主に「腸腰筋」「大腰筋」「大腿直筋」になります。

股関節前方の筋肉のストレッチ方法になります。

注意点は片側で骨盤が前に傾かないようにブロックしますが、片側は前に傾こうとします。初期は痛みが強く出る可能性もあるため、痛みに注意しながら行うようにしましょう。

体幹筋のトレーニング

脊椎の前には臓器と体幹筋が位置しています。この体幹筋に力がしっかり入ることで「腹圧」が高くなり、前方から脊椎が倒れてこないようにクッションのような役割で支えてくれます。このクッションを作る体幹筋の力が落ちていると、支えることができないため脊椎が伸展してしまいます。

はじめは、なるべく脊椎が動かないように静的な体幹トレーニングから始めることが大切です。

胸椎の伸展可動性の改善

脊椎は首にある頚椎、背中にある胸椎、腰にある腰椎に分かれています。加齢や不良姿勢によって胸椎が動かなくなってしまうと、腰椎が過剰に動く必要が出てきてしまいます。そうなれば腰椎に負担がかかってしまうため脊椎分離症の症状が強くなる可能性があります。そうならないために胸椎の柔軟性を出しておく必要があります。

この運動は少し注意が必要で、腰が反ってしまいます。

最初の頃は痛みや症状が強くなる可能性があるため、痛みをしっかり確認しながら行うようにしてください。

殿筋群筋力トレーニング

股関節前方の筋肉のストレッチで言いましたが、骨盤が前に傾かないことが大切で前の筋肉のストレッチをすることが大切と説明しました。

殿筋は後方から骨盤を後ろに傾かせてくれるように働いてくれる筋肉になります。しっかりお尻の筋肉をつけることが大切になります。

骨盤を後傾させながら行うことで患部に負担をかけないように運動を行います。

これも同じですが、痛みのない範囲で行うようにしましょう。

生活指導

最後に生活指導になります。この生活での注意がとても大切になります。

  • お尻が沈み過ぎないマットの使用
  • 立っている時間が長くならないようにする
  • 腰を反るような動作を避ける
  • 最初のうちは大股で歩かない
  • 必要に応じてコルセットを使用する

など日常生活において腰を過度に反らない工夫をするようにしてください。※反らないようにと注意してかがみ姿勢を続けると、それも腰の負担になります。

運動療法について、わからないことや不安がある場合は、お近くのクリニックなどにいる理学療法士に話を聞くようにしてください。

投稿者プロフィール

井ノ元 宏希
しなやかで軽い体を作る専門店コンディショニング&フィットネススタジオAlter代表。理学療法士歴15年。ICU〜在宅まで幅広く経験。認定理学療法士(運動器・呼吸器)、呼吸療法認定士、心リハ指導士。知っていることで悩みが解決することもあります。このブログで少しでもお力になれたらと思っています。