変形性膝関節症に対するピラティスアプローチ

こんにちは!コンディショニング&ピラティススタジオAlterのHiroki です。

僕は理学療法士として15年間医療機関で経験を積んできました。

現在はコンディショニング&ピラティススタジオAlterという体に不調のある方や体作りをしたいという方が来店する健康作り専門のスタジオをしています。

ピラティスを学び始めたのは病院時代です。ピラティスの発祥は100年ほど前と言われていますが、現在の医学(運動療法)でも十分に活用できるメソッドとなっており、スタジオではピラティスを使ったアプローチもよく行なっています。

今回はそんなピラティスをどのように使っているのか、変形性膝関節症に対するアプローチとして一部ではありますが説明していこうと思います。

変形性膝関節症とは

変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)**は、膝の関節における軟骨の摩耗や変性が進むことで、痛みや機能障害を引き起こす疾患です。特に中高年以降に多く見られる疾患で、進行すると日常生活に支障をきたすことがあります。

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)で構成され、これらの骨の間に関節軟骨が存在します。この軟骨がクッションの役割を果たし、関節の動きを滑らかにしています。しかし、さまざまな原因で軟骨が摩耗し、骨同士が直接ぶつかるようになると、変形性膝関節症が進行します。

日本では、約800万人が何らかの症状を有しており、X線学的な関節症変化は約2500万人に存在するとされています。

主な原因として

  1. 加齢
    年齢を重ねると、軟骨の再生能力が低下し、摩耗が進行します。
  2. 過剰な負荷
    肥満や重労働などで膝に負担がかかりやすくなると、軟骨が損傷しやすくなります。
  3. ケガや病気
    半月板損傷や靭帯損傷、膝の骨折などの外傷が原因になる場合があります。

が挙げられます。

一般的な治療方法

一般的な治療法として手術をしない保存療法と手術を行う方法の2つに分かれてきます。

膝に症状のある方は日本で800万人と言われており、手術は2021年度の報告では約7万件と言われているため、多くの方は保存療法を行なっていることになります。

保存療法

  • 生活習慣の改善
    適度な運動や減量が推奨されます。
  • 運動療法
    大腿四頭筋(太ももの筋肉)を強化することで、膝への負担を軽減します。
  • 物理療法
    温熱療法や超音波療法、電気療法で痛みを緩和します。
  • 薬物療法
    鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)や関節内注射(ヒアルロン酸注射)を使用します。

手術療法

進行が著しい場合には、以下の手術が選択されることがあります。

  • 関節鏡手術:関節内を洗浄し、破片を除去する。
  • 骨切り術:脚のアライメントを整える手術。
  • 人工膝関節置換術:摩耗した関節を人工関節に置き換える。

今回は、手術療法の説明を省かせて頂き、保存療法について述べていきたいと思います。

まず保存療法として一番に整形外科の先生に言われることに減量と太ももを鍛えましょうが挙がります。

代表的な保存療法です。

この理由はいずれも研究結果からきています。

変形性膝関節症を対象とした様々な研究の中で、進行と関係が深かった要因が「筋力低下」と「肥満」になります。

Sharma, Arthr Rheum, 2000
Felson, Ann Intern Med, 1992
Messier, Arch Phys Med Rehabil, 1992
Miyazaki, Ann Rheum Dis, 2002
Torii, J Orthop Sci, 2001

このような論文があるため、膝を伸ばす筋肉を鍛えて体重を減らしましょう。ということが広まったのだと思います。

それに加えて、保存療法では物理療法という対症療法があります。

物理療法の目的は基本的に「疼痛の軽減」があります。

痛みが出ている原因への対処というよりは、今ある「痛み」を減らしましょうという目的です。(一部に炎症を抑える作用のあるものもあります)

要するに「痛み止め」に近いものになります。マッサージも厳密にいうと目的は同じです。

一方運動療法である大腿四頭筋の強化はどうでしょうか?

イメージとして多いのは座った状態で膝を伸ばす練習ですよね。

大腿四頭筋に関しては研究でも証明されています。

Bennell K, Hinman R.
Arthritis Care Res, 2011
Huang MH, Chen CH, Chen TW, Weng MC, Wang WT, Wang YL.
Am J Phys Med Rehabil, 2005
Tak E, Staats P, Van Hespen A, Hopman-Rock M.
Osteoarthritis Cartilage, 2005
Messier SP, Gutekunst DJ, Davis C, DeVita P.
Arthritis Rheum, 2005
Sharma L, Cahue S, Song J, Hayes K, Pai YC, Dunlop D.
Arthritis Rheum, 2003

臨床ではどうでしょうか?確かに大腿四頭筋は重要であると思いますが、完全伸展ができず内側広筋(大腿四頭筋の一部の筋肉)の収縮が促せなかったり、痛くて力が入らなかったりと十分にトレーニングできる方が少ないのも事実です。

ではスタジオではどういったアプローチを行なっているのか?

完全伸展に関与する膝蓋下脂肪体

スタジオではすぐにピラティスではなく、まず可動域を確保することを意識しています。

可動域が少ないと、その部分までしか関節を動かすことができません。

特にしっかり膝を伸ばすということが大事になります。

しかし、可動域が拡大しているとその広がった部分までは筋肉の収縮で関節を動かすことが可能です。

可動域を広げたままで筋収縮を促さずそのままにしていると結局元に戻ってしまいます。

可動域のお話をすると、人間の体は通常、筋肉などの細胞と支持組織である結合組織に分かれます。中でも柔軟性のある疎性結合組織と呼ばれる結合組織は最近よく話題に挙がるようになっており、組織上、変化の出やすいものとなっています。

一方靭帯などの密性結合組織は元々が硬い組織で制動することが目的となるため動くことはあまりありません。

その疎性結合組織ですが、膝関節の動きを制御している膝蓋下脂肪体もその組織の一部になり重要な存在となっています。

膝蓋下脂肪体は膝関節に広く分布していますが、主に膝蓋骨(お皿)のすぐ下にあります。この膝蓋下脂肪体は疎性結合組織になるため元々は柔軟性がある分、硬くなりやすい組織となります。

この部分が硬い状態だと半月板の動きが悪くなったり、前方で膝をしっかり伸ばす時に邪魔をしてしまったりしてしまいます。

可動域や膝蓋骨の動き、位置で硬さを評価していきますが、硬さがある場合はまずこの部分からアプローチを行なっていきます。

原因の原因!?

変形性膝関節症の可動域を制限する原因として膝蓋下脂肪体の柔軟性低下が関与していることは多いです。この組織は痛みの感覚神経も豊富で痛みを引き起こしてしまいます。膝の痛みの原因にもよりますが、膝関節の柔軟性改善とともに痛みも軽減していくことを多く経験します。

ではここで終わりでしょうか?

そもそもどうして膝蓋下脂肪体の柔軟性は低下しているのでしょうか?

原因の原因です。

ここで関わってくるのが「姿勢」と考えています。

下位交差症候群(Lower Crossed Syndrome, LCS)は、骨盤周囲の筋肉の不均衡が原因で、姿勢や動作に影響を及ぼす状態を指します。主に腰部から骨盤、股関節にかけての筋肉が関連し、筋力低下や過緊張が交差するように組み合わさることが特徴です。

この概念は、アメリカの整形外科医ウラディミール・ヤンダ(Vladimir Janda)によって提唱されました。

この図から分かるように骨盤の位置で前ももに力が入りすぎて、お尻の筋肉が弱くなるといった筋バランスになってきてしまいます。

反腰で特徴的な筋バランスとなるのですが、反対に骨盤が後ろに倒れていても「運動連鎖」という理論で太ももの前側に過剰な力が入ってしまい、お尻の筋肉が弱くなる傾向にあります。

要するに、体幹周りの筋力の低下などが起きると骨盤が後ろや前に倒れて太ももの前に力が入り、お尻の力が抜けるといった傾向になりがちです。

太ももの前側の筋肉に力が入りすぎるとお皿の動きが悪くなり、先ほど述べていた膝蓋下脂肪体に負担がかかってしまいます。これが長年続くことで軽微な炎症が続きどんどん硬くなってきてしまいます。

原因の原因を考えると筋肉のバランスを整えることが大事になります。

中でも近年重要と言われているのが「半膜様筋」となります。

最近では変形性膝関節症の進行に内側半月の逸脱(MME)が関与していると言われています。

MMEとは内側半月板が本来の位置から外側に逸脱し、膝関節外縁を超えてしまう状態を指します。この逸脱により、半月板が膝関節の機能を十分に果たせなくなり、関節軟骨の摩耗や膝の痛みにつながってくるとされています。

このMMEが起きる原因に半月板後索が関与していると報告されていますが、この後索部分を関節包を通してうまく制御しているのが「半膜様筋」になります。

今から説明するピラティスアプローチはそんな半膜様筋へのアプローチとO脚改善に必要な大殿筋の下部線維や内転筋のエクササイズについてご紹介していきたいと思います。

バランスを整えるピラティスアプローチ

具体的にどのようなアプローチを行なっているか、一部を紹介したいと思います。

先ほど述べましたが、まず膝関節周囲の柔軟性を改善させることを優先してアプローチを行います。

その後にピラティスを使用したエクササイズにてバランスを整えていきます。

ピラティスマシン(リフォーマーやキャデラック、チェアなど)は、エクササイズを行う際に、体幹の深部筋(インナーマッスル)や特定の筋肉を効果的かつ安全に鍛えることができるよう設計されています。その理由と特徴について詳しく説明します。


スプリングの負荷で筋肉を細かくターゲット

ピラティスマシンは、スプリングを使って負荷を調整できる仕組みになっています。このスプリングの特徴により、以下のような効果が得られます。

  • 負荷を適切に調整することで、筋肉を狙い撃ちできる。
  • 弱い筋肉でも無理なく刺激を与えられるため、インナーマッスルの活性化に適している。
  • 動作中にスプリングが一定の張力を維持するため、動きの中で筋肉を持続的に働かせられる。

動作のコントロールを重視

ピラティスでは、「コントロール」を重視し、ゆっくりとした正確な動きでエクササイズを行います。この特性により、筋肉を意識的に働かせることが可能です。

  • 例えば、リフォーマーのスライド機能を使うと、動作中に常に体幹の安定性が求められます。
  • 不安定な動作環境を作り出すことで、普段使いにくいインナーマッスル(腹横筋、多裂筋、骨盤底筋など)を効果的に活性化できます。

関節や周囲の筋肉に配慮した設計

ピラティスマシンは、関節に優しい動きを可能にする設計です。

  • スプリングのサポートにより、関節への負担が軽減されます。これにより、特定の筋肉に安全に負荷を集中できます。
  • 正しい姿勢やアライメントを維持しやすい設計のため、ターゲット筋肉を効果的に刺激できます。

エクササイズのバリエーションが豊富

ピラティスマシンは、同じ動作でも微細な調整が可能で、個々の筋肉に合わせたアプローチができます。

  • ターゲット筋肉を意識したエクササイズ
    例えば、リフォーマーで脚の動きを行う場合、股関節の外旋や内旋を加えることで、大腿直筋や中殿筋などの特定の筋肉に刺激を集中させることができます。
  • インナーマッスルを中心とした体幹トレーニング
    不安定な環境下での動作により、腹横筋や骨盤底筋を自然に働かせる動きが多い。

精密な筋肉へのアプローチが可能

マシン特有の設計により、普段は意識しづらい筋肉を使う動きをサポートします

ピラティスマシンは、スプリングの負荷や動作のコントロールを通じて、普段意識しにくい深部筋や特定の筋肉をピンポイントで鍛えることができる優れたツールです。これにより、筋力の向上だけでなく、体幹の安定性や全身のバランス改善にもつながります。

まとめ

今回は変形性膝関節症でしたが、腰痛や股関節痛、肩こりや肩の痛みなど慢性疾患の場合は「姿勢の崩れ」からくる筋肉のアンバランスが原因となっていることが多いです。本当の健康作りは局所的なアプローチだけでなく、その部分がどうして悪くなったのかを考え、ピラティスなどの優れた運動療法を使った原因の原因に対するアプローチがとても大切になります。

コンディショニング&ピラティススタジオAlterではこのように体の不調に対して原因の原因を考えたアプローチを行なっています。

お体で悩んでいる方はぜひ相談からお問合わせください。

投稿者プロフィール

井ノ元 宏希
しなやかで軽い体を作る専門店コンディショニング&フィットネススタジオAlter代表。理学療法士歴15年。ICU〜在宅まで幅広く経験。認定理学療法士(運動器・呼吸器)、呼吸療法認定士、心リハ指導士。知っていることで悩みが解決することもあります。このブログで少しでもお力になれたらと思っています。