運動の習慣化に必要なもの 〜始める〜
運動の習慣をつけていきたい。今日から運動頑張る。
と意気込んだものの数日で終わってしまったという経験を誰もがしたことがあるかと思います
実際に運動習慣を身につけている方のグラフになります
20歳以上の成人で1年以上運動習慣のある割合は男性33.4%、女性25.1%となっています
反対に考えると運動をしていない人は男女ともに7割程度という結果となっています
鍋谷らの報告では6ヶ月以内に運動をドロップアウトしてしまう人の割合は約50%と言われており、運動習慣があっても40%で運動をやめてしまう人がいると指摘しています
また、海外の報告で、フィットネスに通う方を対象にした5240名を対象にした研究がありました
新規会員のうち、63%が3ヶ月で通うことをやめてしまい、1年間のフィットネス継続率は4%となっていました
今この文章を読んでいる方で運動を継続されている方は3割の中に入りますし、フィットネスに通って1年以上になるとなれば4%の中に入っているというとても素晴らしい継続力のある方だと思います
この継続できる人とできない人で何が違うのか?継続できる人は特別なのか?
僕は病院時代に運動の必要性を指導する立場にあって、どうして運動習慣のある人とない人に分かれるのか疑問に思っていました
そこで運動意欲や運動の習慣化などを中心とした運動科学を含む心理学を学ぶために仕事合間で大学に通いました
そこで学んだことは「運動習慣は作れる」ということでした
今回は2回に渡って運動習慣の作り方について書いていきたいと思います
最初は「始め方」についてです
どのような心理が働いて、運動を始めようと思うのか。そして、急にやめてしまわない方法も始める前も結構大事になってきます
2回目は「行動した後に続けていく工夫」について書いていきます
目次
- 全ての源は「欲」
- 始め方 〜知識が大事
- 始め方 〜自信が大事〜
- 興味とやる気の違い
全ての源は「欲」
まず行動をするということは、そこに必ず「欲」が発生します
「欲」といえばマズローの欲求5段階説が有名です
最下層から生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求があります
- 生理的欲求:生きていく上で必要な基本的な欲(食欲、睡眠欲など)
- 安全欲求:安全に生活したいという欲(安全な場所で生活したい、健康になりたい)
- 社会的欲求:みんなと繋がっていたい欲(集団に属したい、孤独は不安)
- 承認欲求:みんなに認めてもらいたい欲(誉めてほしい、認めてほしい)
- 自己実現欲求:自分のしたいことをしたい
マズローはこの最下層の欲求が満たされないと、次の欲求に上がれないと言っています
そのため、睡眠不足が続いている場合は、まず睡眠をしたいという生理的欲求が優先されて、上位の欲求は起きないとしています
例えば子育て中のお母さんは睡眠不足が続いており、生理的欲求が満たされていないですが、お父さんは働いていて、承認欲求にあるかもしれません
夫婦で階層が違うため、話や価値観が合わなくなるということが起きてしまいます
病院の中でも同じように、入院している人は生理的欲求や安全欲求(家に帰りたい、不慣れな病院でなく家がいい)などの層にいる方が多いように思います
そのために、より良い人生のためには、、というような話は頭に入らないことが多く、
どちらかというと何を食べてもいい、これをすると再入院などの生理的欲求や安全欲求に沿った話の方が聞いて頂けます
人の行動は意識的にも、無意識的にも「欲」から出発しています
そのため、ある行動を続けたいとして、大きな「欲」があったとしても、それが解決した時点で「欲」はなくなるため、行動が起きなくなります
(あの人に振り向いて欲しいからダイエットをする⇨憧れの人にパートナーができた⇨ダイエット終了)
のようなパターンです
おすすめとしては「欲を整理してたくさん作る」がいいと思っています
例えば運動を習慣化したい場合、運動によるメリットをいっぱい書き出します
そうすると、気にしていなかったメリットも見つかるため、一つの欲がなくなっても違う欲が行動を起こしてくれます
行動していて欲が変わることは、よくあります。
(モテたいから筋トレしてたけど、自分の筋肉を見てほしい、もっとカッコ良くなりたい。)などです
大きな風船の気球よりも100個ぐらいの小さな風船がたくさんついた気球の方がリスクは少なくなりますし、欲が変わることもあります
「欲」を意識するだけでも行動は変わります
一度自分の「欲」を整理してみましょう
ちなみに、欲の源となるのが「誘因」ですが、誘因は至る所に散らばっています
この誘因が欲に結びつくかは、個人の経験であったり、知識、環境によって変わってきます
(同じケーキでも、ケーキが食べたいという欲が出る人と、ケーキに興味のない人は欲が発生しません)
欲が発生すれば次は頭の中で計算が行われます
始め方 〜知識が大事〜
これは欲が発生してから、行動に移るまでの頭の中の過程になります
大きく2つのことをクリアすると行動に移すことができます
そのうちの一つが「結果期待」になります
これはヴルームの期待理論という考え方になります
簡単にいうと、「損得を計算して得だと思えば行動に移す」というものになります
天秤にかけて、自分の労力が得られる結果に対してかけてもいいと思うかどうかになっていて、労力の割に得られるものが少ないと感じると行動が起きなくなります
これだけ働いても500円しかもらえない。じゃあやめとこうかな
これだけ働いて1万円ももらえる。働こうかな
的な感じです
ここで重要となるのが「知識」になります
天秤にかけて労力と得られる報酬を計算するのに、間違えている場合は行動に移ったりしますが、期待に沿わないものであればすぐにやめてしまうことになります
ダイエットなど典型的な例になります
「こんなに頑張ってこれだけしか痩せないの?話と違う」的な感じで
ダイエットに関する本やテレビや噂などを聞いて、簡単に痩せられそうな話を信じて行動に移します。この時の天秤は、少ない労力(水分を制限する、ご飯を抜くなど)で体重を落とせると思って、計算上これであれば努力してもいいと考えます。結果、痩せられないので思ったものと違う。ということになります
習慣化したいこと、行動したいことに関して「正しい知識を身に付ける」ということが行動を始める前に必要なことになります
ダイエットの目的は何か?基礎代謝量の計算方法や栄養の取り方、筋力トレーニングといった代謝や姿勢を変化させる方法、また筋力トレーニングの効果がいつぐらいから出るのか。原理、原則をできる限り調べることで、行動した後の思ってたこととの差が減ります
英語学習の場合、目的を明確にしておく。その目的のためにはどういった英語学習が向いているのか。時間はどの程度かけないといけないのか。その時間を1日のうち、どこで捻出できるのか。
こういったことを考えていきます。
アメリカ国務省のFSI, 外交官養成局が公表しているリストでは英語習得に必要な時間は2200時間と言われています
英語学習を1日1時間がんばろうと思ったとして6年程度かかる計算になります
毎日1時間で6年です
ここを抑えておくと、1年経って喋れなくても、6年が頭にあるため英語学習をやめようとは思いません
逆に、YouTubeなどで「3ヶ月でペラペラ」や「留学すればペラペラ」という情報だけで行動を始めてしまうと、3ヶ月、留学で「思っていたのと違う」ということになってしまいます
情報は溢れ過ぎてしまい、正しい知識(100%正しいというものがあるわけではないと思っています)を習得していくことが難しくなっています
海外ではニュースやネット記事、論文が本当に正しいものなのか、読み方などを子供の頃から学校で勉強していると聞きます
間違った情報に流されないためにすることは、日頃から学び続ける姿勢が大事だと思っています
いろんなことを学ぶことで、うわべだけの話をしているなど分かってくるのだと思います
行動を始める時に大事な「知識」を適切に習得できる能力を身に付けることで習慣化が近づきます
始め方 〜自信が大事〜
結果期待を考えて行動を行うことを決意したとしても、そこで行動は生まれません
その行動をやり切ることができるかを考えて、行動できると決意すれば行動に移ることになります
この部分を効力期待といいます
分かりやすい言葉で「自信」や「自己効力感」といったりします
行動には簡単なレベルから難しいレベルまで様々あります
結果期待で大きなものを得られることが計算できたとしても、それをやり切る自信がなければ行動をしようとは思いません
そのため、この効力期待の果たす役割は大きいものになります
では、どうやってこの効力期待(自信)をつけていくのか
この方法は4つあるといわれています
- 直接的達成体験
- 代理的情報
- 言語的情報
- 情緒的な喚起
があります。それぞれ説明していきます
1、直接的達成体験
これは自分で小さな成功をコツコツ積み上げていくことでできてくる自信です
知らない人と話をして盛り上がる。知らない場所への旅行を楽しむ。みんなの前で発表する。一生懸命練習した逆上がりができるようになる。などなど
成功体験を積むほど自己効力感(自信)がつくといわれています
これは皆さんも経験したことのあるものだと思います
他のものと違って、自分一人で自信を獲得できる方法になります
小さな成功積み重ねましょう
2、代理的情報
これは他人の成功や経験を通じて自分の自信につながる方法です
あの人がダイエットに成功した!?あの人が、、
あの人がダイエットに成功しているんだったら、私は絶対成功できる
って思ったことはあるかと思います
自分に近い人や、自分より下だと思っている人が成功すると効果は抜群になります
よく、環境が自分を変えるといったことを聞いたことがあるかと思います
周りが論文をばんばん出しているような環境であれば自分もできると思って、取り組みます
周りが筋トレに目覚めていたら、自分も筋トレをしようと行動したりします
こういった行動に代理的情報による自信がついていることも要素に含まれていると思います
この代理的情報は本やテレビでも効果がありますので、自分に自信がないと感じている人は、著名な方の今までの道のりや伝記を読むことで、「最初はみんな同じ人間だ。この人にもこんな時期があったんだ」と思うことで、自分もできるんじゃないかと自信がついてきます
自信がないと悩んでいる時は本を読んで下さい
3、言語的情報
これは自分でどうしようもできない方法になります
誰かに説得されることでつく自信です
例を挙げると、
いきなりイチローにバットを渡されて、「君、今まで色々な人を見てきたけど野球の素質があるよ。次のバッターボックスでバットを振ってごらん。打てるから」っていわれると、打てる気がしません?
言語的情報は有名な方やすごい人に説得されるほど威力を増します
子供も同じで、親からの説得を受けて育っている人は自信があったりします
これはどうこうできる問題ではないので、知識の一つに持っておいてください
4、情緒的な喚起
これは感情に作用するものになります
勝負の時に盛り上がる音楽を聴くことで自信がみなぎってきます
羽生選手やラグビー日本代表の選手など試合前に音楽や映像を見ることで自分の感情を上げていたと聞きます
感情を上げることで起こる自信の作り方
いざという時の勝負曲を準備しておいてください
以上が効力期待(自信)を作る方法といわれていますが、行動する上で知識と同じように大事な効力期待
ここを意識するだけでも行動しやすい身体になっていきます
結果期待と効力期待
行動する上でとても大事な要素です
興味とやる気の違い
このお話は前提があります
欲があり、その欲を達成するために必要な行動を決めて行動するということは、欲が達成できれば行動は止まってしまいますし、違う手段が見つかればその行動は変更することになるかと思います
この働きかけのことを「外発的動機付け」と言います
この外発的動機付けには段階があるといわれていて、より自分のことと認識すること(自律性)があれば行動は強化されるといわれています
自律性?どういうこと?となるかと思うので、例でたとえていきます
ある二人のテスト勉強をしている学生がいました
A君は、このテストで良い点を取らないと、先生やお母さんに怒られると思いながら勉強しています
B君は、自分にはパイロットになるという夢があって、その夢のためにはこのテストで良い点を取らないといけないと思いながら勉強しています
どちらの方が自律性(自分ごとに思うこと)があって、行動が強化されると思いますか?
同じ外発的動機付けですが、段階があることはなんとなくわかったかと思います
この図が段階になりますが、大まかな例で説明すると、、
・外的調整:怒られるからする
・取り入れ調整:恥ずかしいからしておこう
・同一化:あの人にこう言われたな。確かに重要そうだからやっておこう
・統合的:自分の将来のための努力だ!野球選手になるのにはこれが必要だ
こんな段階になっていきます
この段階で右の方(自律性を上げる)に移動することで行動が強力になるので、自分の夢や欲に絡めて自分自身を説得することが重要となります
ここで勉強することは自分の夢である〜に一歩近づくなどです。
一方、やる気を全く使用しない行動方法があります
それを「内発的動機付け」と言います
内発的動機付けとは行動自体が「目的」になっているものを言います
夢のために〜をする必要がある。や怒られないために〜をするなど、行動に理由があるものではなくて、したいからするといったものになります
「そこに山があるから登るんです」的なやつです
どうしてしんどい思いをして登らないといけないのかって考えている人は「外発的動機付け」になっていますし、単純に山登りが「欲」になっている人は行動に理由がありません
動機付けの次元が違うのです
これは自分でどうしようもできないものとされているので、自分の内発的動機付けが何なのかぐらいの把握をしておくことがいいと思います
僕の場合は映画鑑賞やジョギングなどの運動、読書などの学びです
これを知る方法でいい方法があります。自分に質問をする方法ですが、、
何もない部屋に色々なものが転がっています。何をするのも自由で制約はありません。お金や生活のことは全く気にしない環境を想像してください。
その時、あなたは何をしますか?
その時に選んでするものが「内発的動機付け」になります
子供は熱中することが多いですが、内発的動機付けで動いていることが多いです
大人になるにつれてなくなってきてしまいますが、、
このようにモチベーションにはさまざまな心理が働いて行動が生まれてきます
行動科学を用いることで、習慣化したかったことや行動したかったことが、やりやすくなっていきます
行動科学を武器に人生を変化させていきましょう
コンディショニング&フィットネススタジオAlter代表。理学療法士歴15年。ICU〜在宅まで幅広く経験。認定理学療法士(運動器・呼吸器)、呼吸療法認定士、心リハ指導士。論文執筆経験あり。関節ファシリテーションや運動器エコー、ピラティスなどを学んでおり体について悩んでいる人を運動療法で救っていきたいと思っています。